切なくて論理的で震える カズオ・イシグロ 私を離さないで
あ。とうとう。
それが感想で、別に一方的に著作を読むだけなのにとても嬉しかった。
五年以上前、シンガポールの広告制作会社で仕事をもらっていた。
そこは日系企業かつ女性ばかりだった。
時々、東京チームの仕事を振り分けられて、暫定で通っていた。
その会社は表参道の外れのコーポラスを何部屋も借りて東京でも制作会社として色々な業務をしていた。
東京チームには北米で通信社の編集部長だった女性がいた。
彼女はジャーナリストが第一希望だったのに、戻ってきた東京では事務アシスタントになっていて悶々としているようだった。雇い主の手前かあまり出さないようにしていたようだけど。
夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)
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当時からシェアハウスに暮らし、あまり持ち物を持たないというのも自分の暮らしと真逆で興味深かったのだけれど。
その彼女の愛読書がカズオ・イシグロで
なぜか表参道のカフェで買ってきたお菓子と会社の備品のソフトバンクのお父さんマグにいれたコーヒーをたくさん消費しながら小説の感想を話し合った。
一言では言えないが実は柔らかく血が通っていて。
切なくてでも理知的、論理的な静謐さ。
その中で描かれる人間関係や会話が堪らない。
二人の感想を要約するとこんな感じ。
物欲しそうにしている売れっ子作家が受賞したらノーベルおよびに財団なんか絶対に信じなかっただろう。
カズオイシグロが正当に評価されて、あの小説がもっと多くの人に読まれるのが嬉しい。
唐突に知りあった人と、小説の感想を話し合う確率が高くなるのだ。
と、思うことにしている。
知り合うことなんかないかもしれない。
それでもそんな可能性もある。それを楽しみにするのも全然悪くないと思う。
読む楽しみのために存在する小説。
すごく少ないけど、あったあった!と探し当てて嬉しくなる小説。
しなやかでおしゃべりではないのに実は雄弁。
読んでいると落ち着く。
この小説を久しぶりに読み返してみたいと思います。
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